堀江敏幸『もののはずみ』(角川書店)

もののはずみ

白地にタイトルと著者名だけが小さく書かれた、超シンプルな装丁。それでも、どことなく品があるように見えてしまうから不思議だ。
本書は、「歴史」を語るほどではないけれど、思いをはせる程度には昔に作られた「もの」たちとの出会いをつづったエッセイ集。著者がフランスに留学?しているとき、あちこちの古物市をのぞいて集めた「もの」たちのようだ。

カフェの釣銭用の小皿、洋服のボタン、鉛筆...、特別なものがあるわけではないけれど、著者の文章に「乗せて」語られると、どの「もの」にも背景に奥行きがあって魅力的に感じられてくる。そう、この本では語られる「もの」そのものも気になるのだけど、「もの」との出会いや来歴に思いをめぐらせる書き手の「文章」そのものに、どうしようもなく惹きつけられてしまうのだ。

著者の撮影した「もの」たちの写真も、味わい深い。