読書

ジークムント・バウマン『リキッド・モダニティ 液状化する社会』(大月書店)

いかにも翻訳ものという感じで、しかもけっこううねっている文体なので取っつきにくいけれど、いろいろと「目からうろこ」的な記述がある。印象に残った部分を抜き出してみると、 いま、一般に「公的課題」とみなされているもの、あるいは、そう解釈されてい…

末木文美士『仏教 vs.倫理』(ちくま新書)

これは収穫。 著者は仏教学の研究者。(全く知らないけど、その分野では著名な方かもしれない) すでに書評が出ていたので、いちおうリンクしておく。 http://www.yomiuri.co.jp/book/author/20060228bk01.htm http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei…

東浩紀 編著『波状言論S改』(青土社)

北田暁大、宮台真司、大澤真幸、鈴木謙介といった若手+中堅どころ?の社会学者との対論をまとめたもの。ここで名前が出ている人たちのよい読者では全くないのだけど、あちこちに突っかかりながら進んでいく議論を追いかけていると、この10年くらいでリバタ…

森博嗣『ダウン・ツ・ヘブン』(中央公論新社)

久しぶりの森博嗣。 パイロット(ジェットではなくプロペラ機)であるクサナギが主人公のシリーズ3作目。装丁は凝っていて、本屋でも思わず目に止まる。 過去や未来といった時代設定や場所など、小説の背景があいまいにされたままなのだけど、それゆえに、…

坂木司『青空の卵』(東京創元社)

例によって、北上次郎氏による書評を(どこだかの雑誌で)読んで興味が湧いたので、読んでみた。 自宅でプログラマーをしている引きこもりの鳥井と、外資系の保険会社に勤める坂木の二人が遭遇する、ちょっと変わった人たちとの交流と謎(出来事)が交錯する…

横田増生『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(情報センター出版局)

図書館の棚をなにげなく眺めていたら目に止まったので、借りて読んでみたらけっこう引き込まれ、一気に読了した。 潜入ルポ、とあるように、アマゾンの物流センターにアルバイトとして雇われた半年間の経験をもとに書かれたルポルタージュ。副題にある「躍進…

三崎亜記『バスジャック』(集英社)

『となり町戦争』で注目された著者の2冊目の作品集。「小説すばる」に発表された7つの短編が収められている。長さはいろいろあって、数ページのものから90ページを超えるものまでさまざまだ。どの短編も読みやすいのだけど、どれもが書き込みが不足気味の…

山本幸久『凸凹デイズ』(文藝春秋)

以前、偶然入ったブックオフでやっていた「単行本500円均一セール」で買った本。 同じ著者の『はなうた日和』ISBN:4087747670 がけっこう面白かったので、均一セールで見かけてすかさず購入。 まだ最後まで読んではいないのだけど、買って正解。時間が許せば…

平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(平凡社)

青山氏はその連載の中で、「失われた街の風景がそこいらじゅうからぐんぐん立ちあがってくる、まるで広瀬正的タイムマシン本」と評していたけど、1960年代半ば生まれのワタクシにとっては、60年代の東京の風景は過去そのものであって、もう歴史の一場面。と…

『山口瞳「男性自身」傑作選 中年篇』(新潮文庫)

たまたま行ったブックオフで見つけて購入。こんな本が出ていることを知らなかった。選者は重松清。 山口瞳のエッセイをまとめて読んだのは初めてだったけど、読み始めるとなんとなく止まらなくなる。もちろん、古さや時代を感じさせる場面もたまにはあるけれ…

『教養のためのブックガイド』(東京大学出版会)

もう少し面白いことが書いてあるかと思って持っていった本だったけど、可もなく不可もなくという感じ。どちらかというと、文系よりも理系の先生が書かれたものに興味を引かれた。それと、最後にある「読んではいけないブックガイド(だったか?)」のリスト…

古川日出男『二○○二年のスロウ・ボート』(文春文庫)

ISBN:4167679744(書影が出ない) 『中国行きのスロウ・ボートRMX』という単行本が出ていることは知っていたけれど、元バージョンである村上春樹の方を読んでいないので、これまで手が伸びなかった。でも先日、文藝春秋のPR冊子「本の話」を見ていたら、仲俣…

小島寛之『使える!確率的思考』(ちくま新書)

数理経済学者でありながら、「文学界」に異色の村上春樹論を出すなど、文理を超えて?活躍されている著者の新刊。 「確率的思考が身につけば、世界の見え方が一変するよ」、ということがあの手この手で書いてある。(p11) と著者がいうとおり、読み終わると…

マイクル・コナリー『暗く聖なる夜 上・下』(講談社文庫)

ロス市警の強盗殺人課に勤める刑事、ハリー・ボッシュを主人公とするシリーズ9作目。当初は扶桑社文庫から出版されていたこのシリーズも、訳者は替わらないものの、早川書房からハードカバーで出たり、また講談社から文庫で出たりと、版元の変化が激しい。…

平井玄『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』(太田出版)

表紙ばかりか、天地小口全てが赤い本。この見た目だけでも、著者の心意気が表されているかのようだ。おすすめ。 『現代思想』などで著者の文章を目にすることはあったけど、一冊の本を読んだのは初めて。4つの章があるけれど、なんといっても連合赤軍事件の…

宮部みゆき『日暮らし 上・下』(講談社)

やっぱり、宮部みゆき、よいですな。 いまや「国民的作家」と言っても言い過ぎではないほどの人気と実力の持ち主ですが、『模倣犯』を読んだとき、それまでの「宮部作品」に共感していた部分との距離感を感じてしまい、それ以来、なんとなく手にとることがな…

佐藤優『国家の罠』(新潮社)

だいぶ前に図書館にリクエストしていたのだが、ようやく順番が回ってきた。 年末ということで、「今年出た本のベストテン」といった企画をあちこちで見かけるけど、ノンフィクションでは、本書は外せないだろう。読んでみて、そう実感する。 おすすめ。 もは…

内田樹『街場のアメリカ論』(NTT出版)

あいかわらずの新刊ラッシュが続いている内田先生の新刊。 期待?に違わず、いままでこちらが思ってもみなかった視点や見方が出てきて、「なるほどねぇ」と口に出しそうになりながら読了する。 イタリアのスローフード運動に地域ナショナリズム性を見いだし…

白石嘉治、大野英士 編著『ネオリベ現代生活批判序説』(新評論)

本屋で見かけて面白そうだと思ったので、例によって図書館で借り出して読んだ。 本書によると、タイトルの由来は、「ファシズムをファッショと呼んだように、ネオリベラリズムも侮蔑の意味を込めてネオリベと呼ぶ」ということらしい。 かつて、どこかの掲示…

野村浩也『無意識の植民地主義』(御茶の水書房)

無意識の植民地主義―日本人の米軍基地と沖縄人 (画像がない) 近所の図書館にある新刊コーナーで、真っ白いカバーに文字だけの(背)表紙がやけに目についたので 借りてみた本。もちろん、著者がどういう人なのかは全く知らない。 副題に「日本人の米軍基地…

角田光代『対岸の彼女』(文藝春秋)

帯には「直木賞受賞作」とある。いま旬の作家のひとりではないだろうか。これまでに短編集やエッセイも読んだことはあるけれど、なんといってもこの人は、長編小説ではないかと思う。 映画にもなった『空中庭園』や前作『庭の桜、隣の犬』では、どこにでもい…

橘木俊詔 編著『封印される不平等』(東洋経済新報社)

経済学者であり、日本での格差拡大を(たぶん)最初に指摘した橘木俊詔が、ジャーナリストの斎藤貴男、教育社会学者の苅谷剛彦、社会学者の佐藤俊樹とで行った対談(第一部)と、自らの不平等化の実証的研究と政策課題などを論じた第二部とで構成された本。 …

杉田俊介『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)

10月に出た新刊。たまに見るサイトなどで取り上げられていたので、読んでみた。 著者はヘルパーとして「フリーター的に」働いているという、30歳の方。 目次からは、わりと整理されている議論、というのが想像されるのだけど、実際に通して読んでみると、…

HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)作者: 小路幸也出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2005/04/25メディア: 単行本 クリック: 20回この商品を含むブログ (73件) を見る

この著者の本を読むのは初めて。最近の『本の雑誌』の書評で、北上次郎が、この人の最新刊のことを取り上げている中で、「あわててこの著者の書いたものを読んだけど、『HEARTBEAT』がベスト」という趣旨のことを書いていたこともあって、読んでみた。10年前…

知った気でいるあなたのための新経済学完全理解作者: 高田明典出版社/メーカー: 夏目書房発売日: 2000/02メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (3件) を見る

『知った気でいるあなたのための構造主義方法論入門』や『知った気でいるあなたのためのポストモダン再入門』という、「知った気でいる」シリーズの中の一冊。3冊のなかでは2冊目の出版になるようだ。 今回は経済学に焦点があてられていて、「新しい経済学…

ニッポン泥棒作者: 大沢在昌出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/01/15メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る

久しぶりに読む。大沢作品。 産経新聞で一年以上にわたった連載をまとめた小説で、2段組560ページのボリュームなので、たっぷりと「大沢節」が堪能できる。 ハッカーたちによって開発された「ヒミコ」というシミュレーション・ソフト。国際政治にも影響を与…

世に出ないことば作者: 荒川洋治出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2005/09/21メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (31件) を見る

気になる作家のうちの一人。 荒川氏はフツーに言えば詩人なんだろうけど、ご本人は自分自身を「現代詩作家」と名乗っているので、あえて「作家」といわせていただくことにする。はじめて読んだ荒川氏の本は、『夜のある町で』。 その、肩肘張らない、きわめ…

思考のフロンティア別冊『変成する思考』(岩波書店)

4名の研究者による共同討議の記録で、「グローバル・ファシズムに抗して」というサブタイトルがある。参加しているのは、市野川容孝、小森陽一、守中高明、米谷匡史の4名。 2部構成になっていて、前半は「文化と翻訳」、後半は「民主主義と暴力」というテ…

山本幸久『はなうた日和』(集英社)

ひとことで言えば、「世田谷線」小説。 世田谷線の沿線にたむろする人々の日常を、ホンワカとしたタッチで描く短編集。とはいえ、各短編でのラストの「オチ」は、なかなかひねりが効いていて、一筋縄ではない。(とくに後半になるほど、その傾向は顕著だ) …

井上荒野『しかたのない水』(新潮社)

もちろん、この人の小説を読むのは初めて。 本書は「小説新潮」に連載されていた6編をまとめたもので、フィットネスクラブに集う老若男女の日常を切り取った小説集。それぞれの短編に出てくる登場人物は重複しており、語り手となって次々に「表」に現れてく…