末木文美士『仏教 vs.倫理』(ちくま新書)

仏教vs.倫理 (ちくま新書)
これは収穫。
著者は仏教学の研究者。(全く知らないけど、その分野では著名な方かもしれない)
すでに書評が出ていたので、いちおうリンクしておく。
http://www.yomiuri.co.jp/book/author/20060228bk01.htm
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/dokusho/news/20060319ddm015070067000c.html

本書の読みどころは、「究極の他者」としての「死者」を扱う第3部だろう。
日本においてひろく普及していて、それゆえに「堕落」もしている葬式仏教を批判的に乗り越えて、その現代的な再生をはかることを提案する。
高い戒名など、さまざまな批判がおおっぴらに語られる葬式仏教であるけれど、「死」と直接に結びついて普及した「葬式仏教」であるからこそ、他者中の他者である「死者」との対話が開かれて、自己を見つめ直す契機ともなりやすいのではないか、という。
関連して言及されるヒロシマ靖国の問題への著者の視点も、また違った角度でちょっと新鮮だ。
声高にならず、一般市民の視線と生活態度に即した形での倫理のあり方(=再構築)を求める姿勢には、共感を覚えた。
おすすめ。