瀬尾まいこ『幸福な食卓』(講談社)

幸福な食卓

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」、という印象的なセリフで始まる、4本の連作短編による家族小説。
とはいっても、この家族、語り手の妹のほかに兄と両親がいるのだが、母親は別居中で、父親は仕事(中学教師)を辞めようとし、兄はそういう波乱を意に介さないようなちょっと変な人である。
妹の語り口は、いたって淡々としている。
でも淡々としながらも、この家族が抱えている悩みや葛藤が、妹の目線を通じてしだいに見えてくる。

まあ、どんな家族にも、外からはうかがいしれない問題を抱えているものなのだろう。
衝撃的な事件が起こっても、それでも、時間は流れていくし、日々の生活は繰り返される。それが家族という「関係」でもあるだろうし。

その一方、「家族」という関係について、私たちは昔ほどハッキリとした輪郭をイメージできなくなっているとも感じる。そんな揺れ動く「家族」の関係を、家のなかでの会話を通じて描いた小説、といえようか。
ただ、ラストでの展開にやや不満を感じるのだが。