春日武彦『幸福論』(講談社現代新書)

幸福論 ―精神科医の見た心のバランス (講談社現代新書)
読むか読まないか、タイトルだけで判断するとなったら、たぶん避けているだろうけど、
著者の名前に見覚えがあったので、手に取った。
ちょっと前、「内田樹の研究室」http://blog.tatsuru.com/ を経由して、
医学書院のサイト内にある内田氏と春日氏の対談を読んでいたため。
(以下は、その対談記事)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2613dir/n2613_01.htm

この著者、すでにして著名な精神科医らしくて、著書もいくつかある。


それにしても、ずいぶんな題名ではあるが、中身はといえば、何か大仰なことが書いてあるわけでもなく、地味。
が、けっこう面白かった。というか、春日武彦という著者に、興味がわいた。

「幸福は常に断片として立ち現れる」と説き、「日常生活のディテールを楽しめ。とるに足らぬことと無価値であることとは違う。奇想を愛で、事物と和解せよ。肯定的であることと脳天気なハッピー思考とは異なる。そうした視点に立って、わたしは幸福と不幸とについて考えを巡らせてみたい」として綴られるのは、著者の経験や子供のころの記憶から語られる、多数のエピソードだ。
この本は、言ってみればエピソードが次々につながっていく、ながーいエッセイのようなものである。
そして、どのエピソードにも、著者が考える「幸福」や「不幸」の具体的な姿が反映している。

新書という媒体で、こういう書き方はめずらしい。
読んだあとは、なんとなく、人間という生き物がいとおしくなる、ような気がする。