佐川光晴『家族芝居』(文藝春秋)

家族芝居

新宿は上落合にある「八方園」という老人グループホーム。そこに暮らすのは、七人の婆さんと介護福祉士の善男さん。そこへ、善男の甥であるアキラが医学部受験のために上京してきて、いっしょに暮らすことになる。そのアキラの眼を通じて、八方園でのにぎやかな「共同生活」が語られていく。
文学界に掲載された3つの短編をまとめたもの。


ともに暮らすとはどういうことか、家族とは何なのか。
血縁でも知人でもない人間と一つ屋根の下で生活していくさまを描きながら、「いろいろあるからこその、共同生活のよさ」をしみじみと思い知らされる小説だ。しかも、一緒に暮らしているのは元気ではあるけど婆さんばかりなわけで、当然ながらその生活は「死」とも向かい合わせだったりする。
この小説の中心人物である善男さん、過去もふくめて奥行きがありそうで、妙に印象に残る。それだけに、語り手が異なる最後の一編で、やや展開を急ぎすぎているのが残念に思えた。(本にまとめるためにそうした?)
とはいえ、なかなかの快作。
ぜひとも、「八方園」のその後を書いてほしい。