大山誠一郎『アルファベット・パズラーズ』(東京創元社)

アルファベット・パズラーズ (ミステリ・フロンティア)

昨年の10月に出た本だけど、「本格推理もの」としては評判なようで、昨年のベストテン企画にもランクインしていることもあり、いまさらながら手に取る。「本格」をうたうミステリを読むのはじつに久しぶり。
2つの短編と1つの中編が収められていて、どれも軸となる登場人物は共通している。
「本格推理というのは様式美の世界」と言ったのは、北村薫だったか。そして、「そういった作品に対して「人物が描けていない」という批判は的外れ」と続いていたように記憶している。たしかに、それはその通りだと今でも思う。が、人物の描写はさておき、推理の「前提」について疑問が生じてしまうようでは、いくら解決に至るロジックがアクロバティックでも、「物語」にすんなり入り込めない。
今回の『アルファベット・パズラーズ』では、その推理の「前提」という点で、ちょっと気になってしまった。


(以下、ネタばれですので、未読の方はご注意を。ただ、本書を読んでいないと以下の記述は不明だと思われますが)

最初の短編、「Pの妄想」。
いくら20年来雇っている家政婦だからとはいえ、家政婦が雇い主の毒殺をたくらんでいる、と雇い主自身が思うのであれば、まずはその家政婦を解雇しようとするのが順当ではないだろうか。その点を、登場人物の誰もが指摘しないのは、いかにも不自然な気がした。

二つめの短編、「Fの疑惑」。
一人二役だった、という設定はいいのだけど、その二役が「小さな組織の経営者とその従業員」というのでは、やや無理がないか。小さい組織だからこそ、全員が一同に顔をそろえる場面も頻繁にあるのではないだろうか。


というようなところが引っかかってしまい、最後の中編に行く前に、読む気力がなえる。
イデアを納得させるには、もう少し文章量を増やす必要があるのでは。ただ、設定からして本格の様式だ、と言われてしまうと、返す言葉はないのだけど。

本格ミステリ」は、私には向いていないのかもしれない。