池内了『寺田寅彦と現代』(みすず書房)

寺田寅彦と現代―等身大の科学をもとめて

寺田寅彦といえば、夏目漱石の弟子でもある物理学者で、岩波文庫から出ている随筆集で知られる。
個人的には、数年前に出たおなじ岩波文庫のエッセイ?集『柿の種』が印象に残っている。

著者は宇宙物理学者であり、また、寺田のエッセイ集も編んでいる。さらに、自身もエッセイや書評をあちこちで書いていて、寺田の後を追うかの活躍ぶり。
その著者が、「寺田寅彦について現代から再照射」するべく、新たに書き下ろしたのが本書だ。


本書では、寺田が残した文章を手がかりにして、現代の科学技術や社会のありようが、寺田の「眼」を通じて捉え直されていく。その範囲は、「新しい科学」「技術と戦争」「科学・科学者・科学教育」「自然災害の科学」「科学と芸術」と多岐にわたる。あとがきによれば、構想段階ではずいぶんと難渋したらしいが、執筆にとりかかってからは短時間とのこと。そのためか著者の筆致は、寺田への敬意を払いながらも、しかし一定の距離を置いて接する一貫性が感じられた。

「等身大の科学をもとめて」という副題がつけられているように、(控えめではあるが)著者の主張するところは、第4章で語られる「等身大の科学」と「新しい博物学」という点だろう。
次の著作では、この点について、ぜひ持論をじっくりと展開してほしい。