矢作俊彦『ロング・グッドバイ』(角川書店)

THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ

『ららら科学の子』(これはよかった)で三島賞を受賞した後の第一作であり、また、この著者の久しぶりのハードボイルド作品ということもあって、手に取った。
題名からしてそうなのだが、登場人物の配置も中心となっている筋立ても、あのレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』によっている。いわば、その日本版とも矢作版とも言えるような内容。
ただし、英語タイトルに『THE WRONG GOODBYE』とあるように、「ロング」は「長い」ではなくて「間違った」ということらしいが。(この意味は、最後まで読むと分かる)

ちょっとストーリーを引っ張り回しすぎている感じがするけど、このタイトルを掲げているだけに、チャンドラーもかくやというセリフが満載。ストイックなほどの「やせ我慢の美学(?)」が徹底している。

それにしても、ちょっと長い。文体を味わう作品、と思えばいいのだろうが、ストーリーも追う読み手としては、冗長とも感じられた。
一人称という文体は、主人公(「私」)が出来事の全てを把握(確認)しないと、リアルさが薄れてしまうのかもしれない。よって、複数の事件について主人公が関わりを持つところから書きはじめないとならない一人称という視点は、必然的に文章が長くなりがちなのかも。つまり、錯綜するプロットをテンポよく描くためには、一人称という書き方は向かないのではないか。
こんなことは、すでに誰かがどこかで書いているのかもしれないけど、読み終わってそういう思いを抱いた。