古川日出男『LOVE』(祥伝社)

LOVE

ちょっとうまく言葉にできないのだけど、小説を読んでいて、えも言われぬ高揚感? といったものを感じたのは久しぶり。
たまたま、「web本の雑誌」にこの人のインタビュー記事が出ていて、この新作にも触れている箇所があった。
http://www.webdokusho.com/rensai/sakka/michi46.html
以下に該当箇所を引用すると、

古川: 僕の小説は怒っている、と言われたりします。でも愛している部分もある。だから、大きく分ければ、何かを愛するための文章と、何かを憎んで攻撃するための文章があって、それらは全然違う。次に出すのは愛しているほう。タイトルも『LOVE』ですから。今の東京を舞台にした、群像劇です。

―― でも古川さんの目を通すと、今の東京が、また違ったものに見えてくる。

古川: 今回は巨大なスケールで書くのではなく、日常を生きている目線で、散歩している速度で目に入ってくる世界です。スタイリッシュに書くことを心がけました。自分のテクニックというところで、難しいことをシャープにやろうと思った。ゲラを読んで素敵な気分になれたから、『gift』なんかを読んでくれた人に届けたい。

といった感じ。

そう、この本はまさしく日常レベルの、日々の生活における目線での小説だ。「今の東京」とはいっても、舞台となるのは相当に限定されている地域で、目黒、品川、五反田といったあたり。地域が限定されているのは、猫が出てくるせいもあるのだけど(活動範囲が人と比べて小さいだろうし)、語り手の日常的な行動範囲といったことでもあるだろう。

この本の「読みどころ」は、著者も言うように、文章とその文章から生み出されるリズム感。読んでいる側にたたみかけるように新鮮に響いてくる。それに、読み終わったあとのほんのりとした幸福感も味わえる。とりわけ猫好きの人には。(私は猫好きでもないので、分からないけど)
おすすめです。