佐藤幹夫『自閉症裁判』(洋泉社)

自閉症裁判―レッサーパンダ帽男の「罪と罰」

副題に「レッサーパンダ帽男の「罪と罰」」ともあるように、2001年4月に浅草で起こった女子短大生殺害事件の犯人、「レッサーパンダ帽をかぶった男」の裁判を主軸としたルポルタージュ
事件発生から犯人逮捕までは、マスコミでもかなり話題となっていたけれど、その後パタッと報道が止んだ理由を知ったのは、この本の宣伝でだった。


この犯人の男には、自閉症と思われる障害がある。さらに、男の家族も、長年にわたり生活に困難を抱えてきた。著者は、こうした事件の背景にも分け入って、社会においてこの裁判がもつ意味を、問いかけていく。
とりわけ、3年にわたった裁判の公判記録をつぶさに検証し、公判記録それ自身によって、この裁判が抱えている(と著者が考える)問題点を「語らせていく」ところには迫力がある。公判記録を、いわば読み物として説得力を持たせるまで再構成するには、かなりの労力が注がれたのではないか。

この本では、

  • 精神的な障害をもつ犯罪者に自ら犯した罪をいかに認識してもらい、償うのか
  • 警察や検察による取り調べでは、障害への具体的な配慮が必要ではないか
  • 画一的な福祉行政の狭間で取り残されている人たちに、どう対応すべきか

などといったことが扱われている。
提起されている問題は、どれも簡単には解決できない。しかも、被害者・加害者という立場によっても見方は異なることが、さらに解決を困難にしてもいるだろう。

著者も、問題を「開いた」かたちでこの本を終えているように思う。
読み手としては、著者から受け取った難題を前にして、「悩み続けること」が大事ではないか。そんなふうに感じた。