森達也『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)

ドキュメンタリーは嘘をつく

真っ青な空のなかを(電車の?)電線が横切っている表紙に、まずは目を引かれる本。
エピローグによれば、「この本は、草思社のPR誌「草思」に、2002〜03年に連載された「ドキュメント・オブ・ドキュメンタリー」を下敷きにして」まとめられたもの、だそうだ。
森達也といえば、オウム真理教を教団内部の視点から撮った「A」「A2」がすぐに思い浮かぶけど、もともとの出身は、テレビのドキュメンタリー番組である。現時点ではテレビ番組からは離れているようだが、出自についてのこだわりは、本書でもたびたび触れられている。(テレビで彼の新作が放送されるのを期待したい)

この本は、体系だって主張を展開しているものではないけど、上のような経歴の著者が自身の体験をふまえて、「ドキュメンタリーとは何なのか」を書いたものである。その点でいえば、タイトルの「ドキュメンタリーは嘘をつく」は、やや不正確だろう。むしろ、連載時の「ドキュメント・オブ・ドキュメンタリー」のほうが、本書の内容に近いか。(でもそこに、著者の思いがあるのだろうと想像するが)

著者が繰り返し語ることは、「事実と虚構の境目なんて、限りなくあいまい」「ドキュメンタリーと報道とは、一線を画している」「ドキュメンタリーとは一人称である」等々。これらは、目新しい論点ではないのだろうが、著者の経験を土台にして語られるだけに、説得力がある。また、撮影する側の主観によって切り取られる事実(画像)は客観的事実にはなりえないこと、「撮る」という行為には常に加害性があること、などの事柄も、内外の作品も引き合いにだしつつ論じられる。ドキュメンタリストとして、そういった点にいかに自覚的であるのか、常に自らに問い続けることが大事なのだと著者は語る。

本書を読むと、ドキュメンタリーだけでなく、映像の見方も変わるかもしれない。