井崎正敏『ナショナリズムの練習問題』(洋泉社新書y)

ナショナリズムの練習問題 (新書y)

題名からして、読み手に対して何らかの「問いかけ」が出されつつ進むのかと想像していたが、そうでもなかった。
本書は冒頭、「ねらい」として、

として、「人権と多様な価値観を抑圧しない、品格のあるナショナリズムへの軌道を指し示すこと」が、この本の目標だと書いている。
だが、果たして、その目標は達成されたのかといえば、イマイチだと言わざるをえない。


先の戦争の責任について、東京裁判の被告人らが主張した「自存自衛の戦争だった」という論理が、今に至るまで右派に引き継がれてくすぶっているという指摘は、このところの靖国の問題を見ると何となく分かる。一方、それを批判する側としても、「国民」の外の地点から当該のナショナリズムを批判することには説得力がないし、そこまで極端でなくても、「先の戦争は何だったのか」について、(あれこれありつつも)右派や左派の議論は、一般市民のレベルから見ると、いまだにかみ合ったものにはなっていないような気がする。


たしかに、「ナショナリズム」というのは、やっかいなものだと思う。
では、排外的なナショナリズムに陥ることなく、それを乗り越えて、本書で言う「品格のある」ナショナリズムに至るには、どうするのか。
本書を読んでも、「国民」の中で、どの層が、その「駆動力」を発揮することになるのか、それがいまひとつ分からない。
あるきっかけで自然発生的にできるのか、それとも、一定の階層が担うのか、若い世代か。
すぐに思い浮かぶのは、政治家や政党だけど、あまり期待できないような気がするのだが。